1990/08 割りばし規制審議会

材消費国--どぎつい言葉でいえば"世界の森林破壊者"であるわが国の責任を追及する国際世論の強まりに対処するため、日本国政府は「割りばし」の段階的規制・消費削減の乗り出す方針をかためている、とのウワサがある。
 農水省、環境庁関係筋などからの情報を総合すると、一部の閣僚からは、
「割りばしの主原料は間伐材なので、利用を全廃したところで大した木材節約効果は望めない」
 といった声も上がったらしいが、
「国民の木材消費に対する意識向上をはかり、同時に日本政府の積極的な取り組み姿勢を海外に印象づけるには、やはり最も身近な木材使い捨て行為である割りばしに手をつけるのが順当」
 という方向で決着し、近日中に具体案の検討のため、諮問(しもん)機関「割りばし規制審議会」(略称ワリシン)が設けられる、というところまで話は進んでいるらしい。

 いつ、どのようなかたちで規制がおこなわれるのか。長らく日本人の食生活に欠かせない存在となっている「割りばし」は、いっさい禁止され、消滅してしまうことになるのか......?
 まだ細部は不明だが、とりあえず、割りばしに縁の深い業界人や知識人の皆さんからこの未確認情報についての情報をいただいたので、以下に紹介してみることにしよう。

●自然保護運動家・森河守氏
 それは大変よいことです。すぐ禁止とはいかないでしょうが、とりあえず、割りばしの袋には必ず注意書きをつけてほしい。
「森林資源を損なうおそれがありますので使いすぎに注意しましょう」
 タバコにこの表示があって割りばしにない現状はかねがね不満でした。

●OL・六本木みゆきさん
 木のかわりに、紙で割りばしを作ったらいいんじゃないかしら。どうせ原料は同じなんだから、そんなに違和感ないんじゃないかしら?

●"トレンド仕掛け人"として知られる春本ヤスシ氏
 遊牧民が常にナイフを携帯し、食事もそれでするように、これからはビジネスマンが箸箱(チョップスティック・ケース)をベルトにさして持ち歩くスタイルがトレンドになるでしょう。当然、デザイン的に洗練されたブランド物の箸が大量に出回ることになります。
 日本には「刀は武士の魂」という伝統があります。そのあたりをついて消費者をあおれば、使い捨て時代から持ち歩き時代への転換はアッという間に終わるでしょう。

●OA評論家・山田正一氏
 最近のビジネスマンは、電子手帳だ、ノートパソコンだと持ち物が多いですから、そのうえに箸まで持たなければならないとなると大変。したがって複数機能を複合させた商品が続々と出回ることになるでしょう。「鉛筆つきハシ」とか......。

●食品衛生科学研究所・清河潔氏
 各自が箸を持ち歩くのは不衛生ですし、武器として使われたりしたら大変。かといって、割りばしを使っていた飲食店が塗り箸に切り替えるのも、衛生管理面で不安がある。
 洗浄のしやすさ、扱いやすさ、安全性、耐久性などの観点からみて、今後、日本人の食事用具の基本は、箸から「先割れスプーン」に切り替えるのが妥当だと思われます。

●科学技術評論家・倍生実氏
 割りばしとして使ったあと土に埋めておくと、やがて芽を出して「割りばし」形の枝をつける......日本の先端的バイオテクノロジーを使えば、そんな植物が開発される日も遠くないことでしょう。既存の割りばしを規制するのは、それからでも遅くないと思うんですがねえ。

●寿司職人・飯田鮪氏
 割りばし? うちには前からねえよ。寿司は手で食うもんだ。

(c)YanaKen 1990 as バニー柳沢 オリジナル掲載誌:集英社「月刊PLAYBOY」1990/8(No.182)
PLAYBOY FRONT LINE バニー・柳沢の男の浮遊講座「今月は先月の来月」
「森林資源を損なうおそれがありますので使いすぎに注意しましょう」


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 割りばし論議がすっかり沈静化した今となってはこのテーマ自体が単なる冗談と受け止められる向きもあるかと思いますが、1990年ごろ、実際に「割りばし悪玉説」はマスコミが盛んにとりあげていたものです。
 それに対抗する趣旨で、たとえばこんな本も実際に出ています。
・「ワリバシ讃歌―資源ムダづかい論を切る!」湯川 順浩著、都市文化社

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