1990/06 NHK受信料不払いに起死回生の妙案?

る民放TV局の喫茶室。報道とドラマ、活躍の舞台は違うが親友同士のプロデューサー仲間--S氏とT氏が何か話し合っている。T氏の相談にS氏がのっているらしい。
「するとT君としては、その新作ドラマの制作は中止したいわけだな」
「個人的にはな。ところが問題はスポンサーでね。強硬に"このままやれ"といってきかない。修正案や代案は、ことごとくボツになっちまったよ」
「しょせん視聴者とスポンサーには勝てないってわけか……。それにしてもいったいなぜ? 具体的に教えてくれないか? 夏から放映予定のそのドラマって、どういう内容なんだ?」
「読んでみたまえ。これが企画書だ」

◇   ◇

仮題「必殺! 集金人」

《あらすじ》
 私の名は東郷一郎。職業は、特命公共放送受信料集金人--とくに手強い受信料支払い拒否者をターゲットに、あるときは議論で打ち負かし、あるときは色仕掛け、またあるときは相手の弱みにつけこむ脅迫まがいの手段も辞さない、情け無用、臨機応変、一撃必殺、あらゆる手段を講じて受信料支払いに応じさせる秘密工作員である。
 ちなみに、経費がかかるわりに報酬は歩合制で、収入はよくない。内緒だが、ヒマをみて新聞の拡販や地上げ業も営んでいる。もっとも最近は、

・年末恒例の歌番組の視聴率の低迷
・職員が選挙の応援演説に"出演"
・放送衛星の打ち上げ失敗
・その衛星の購入資金とほぼ同じ金額の赤字を昨年出し、6年ぶりの受信料値上げ法案提出

 ……などなど、敵に口実を与えそうな出来事があいついだため、仕事の依頼が殺到して多忙な毎日である。

 そんな私のところに、ある日、未確認情報が飛びこんできた。ほかならぬメシのタネである公共放送機関が、肥大化、非効率を理由に「分割民営化」されるというのだ。
 もしその結果、受信料徴収制度が廃止されれば、私もふくめた全国の集金人は、清算事業団に追いやられるか、慣れぬ手つきで直営立ち食いソバ屋に立つぐらいしか生きる道がなくなってしまう。私はさっそくあらゆるルートをたどって情報収集を開始した。

「分割民営化後は"×HK早朝" "×HK昼下がり" "×HKゴールデン" "×HK深夜"の各社ができる」 「いや、曜日ごとに7社に分割される」  ……乱れ飛ぶ怪情報の糸をたどっていくうち、ついに私は、ある高官と放送局幹部の密談現場の盗聴テープを入手した。そこに語られた、おそるべき公共放送改革案とは……?

◇   ◇
企画書を読み終えたS氏が、大きくうなった。

「うーむ。面白い。つづきが読みたい」
「気楽なことを言うなよ。こんなドラマを民放が放映できるか?」
「まあ、むずかしいだろうが……しょせんはフィクションだし、軽いタッチで描けば問題ないのでは?」
「いや、必ずしもフィクションとは言いきれないから問題なんだ」
「NHK……の分割民営化が、ありうるというのか?」
「ある意味ではな。いいか、ここから先は本当に秘密……いや、それこそフィクションだと思って聞いてくれ。じつは、この新しいテレビドラマの強硬なスポンサーとは、NHKなんだ
「ええ!?」
「民放にまでCMを流して受信料徴収の必要性を強く訴え、受信料の大幅増収をはかるんだとさ」
「なるほど、自社批判ともとれる番組さえ提供して、なりふりかまわず一般企業並みに利潤を追求するわけか」
「しかも、民放にNHK提供の番組を流せば、それを見たやつは"私はNHKは見てません"と言えなくなる」
「なるほどなあ……。個人的感情だけど、NHK提供の"オールナイト・フジ"なんて、見てみたいなあ」


(c)YanaKen 1990 as バニー柳沢 オリジナル掲載誌:集英社「月刊PLAYBOY」1990/6(No.180)
PLAYBOY FRONT LINE バニー・柳沢の男の浮遊講座「今月は先月の来月」
匿名公共放送受信料集金人が主人公の新作ドラマの怪情報?


 こういう話を書いたことがあるとは本人も忘れてたので、新鮮に読むことができました(^^;。ううむ。異様にタイムリーっていうか、一部の固有名詞を差し替えればそのまんま「最近書いたふり」ができそう……。